本日 18 人 - 昨日 701 人 - 累計 353196 人
  • 記事検索

RSS

一眼二足三胆四力

一眼二足三胆四力

いちがん、にそく(あし)、さんたん、よん(し)りきと読みます。
剣道を習得する上で必須の心得、と言ってもよいでしょう。

傍目に見ていると、剣道は大きな声で気合をかけ、勢いよく相手を打ち込んだり、ぶつかっていったりと、どうしても、そのパワフルな、スピード感のある外観にばかり目がいってしまいますね。しかし、実際のところ、剣道は、人並み外れたパワーやスピードは必ずしも重要な要素ではありません。
それを諭し、戒めた言葉が標題の「一眼二足三胆四力」と言えるのではないでしょうか。
まず一番目は「眼」即ち「目付」(めつけ)。これは、今、目の前にいる相手、そして相手の動きをみる「観」の目であり「感」の目でもあります。
二番目は「足」。いかに素早く、いかに滑らかに相手に接近し、あるいは接近させ、縦横無尽の動きのなかで、自分の打突に好適な間合いをものにし、正確な打突につなげていくか。これも剣道においてはとても重要な要素。
三番目は「胆力」。どれだけ腹が据わっているか。いつもと変わらぬ「かたよらない」「こだわらない」「とらわれない」心。「平常心」を維持できるか。
そして最後、四番目が「力」。つまり「力」は剣道において必ずしも最上位の要素とはいえません。それゆえ、ある程度上達し実力が伴えば、男女の別なく互角に勝負ができる。凄いことに、血気盛んな若者が七十台、八十台のおじいちゃん剣士に触ることすらできない。そのようなことが実際に起こり得るのです。

連合会の夏合宿は、今でも警視庁の先生方をはじめ数多くの高段者の先生方がお見えになります。ずいぶん昔のお話になりますが、そのなかでも、とりわけN範士(当時70代)は全国的にも名の通った名剣士で、当時、この合宿には何年も続けてお見えいただき主任講師の労をおとりいただいておりました。
ひととおり稽古が終わり、まだ少しだけ時間が残っていた。この時、若手の講師、この方も全日本剣道選手権の常連の名剣士、がN先生にお稽古をお願いしました。
静まり返る道場内。100名を超える剣士たちが見守る中、二人の立ち合いがはじまります。かたや血気盛んな現役の名剣士。かたや70代の老剣士。目には見えない気迫と気迫のぶつかり合いが展開されます。空気を切り裂くような気合が発せられます。機を見て若手の剣士がググッと間合いを詰め、美しい姿勢から伸びのある面を放ちます。ところがどうしたことか、これが空を切る。このような展開が一合、二合。そしてこれからあともしばらくは同じような展開、と思いきや、逆に老剣士の厳しい剣尖の攻めに若手の剣士は徐々に壁際まで追い込まれ、最後は、老剣士にスト~ンと、正に絵に描いたような面を決められて、おしまい。
老先生はその後、最高位九段まで上り詰められました。一方、若手剣士は、その年11月の全日本剣道選手権においてみごと優勝、というのは後日談。
これこそが剣道の真髄。即ち、周りで見ている人々からは理解することが困難な内面の深さ。生身の人間同士が剣(竹刀)という媒介をはさみ直接対峙するからこそ実現可能な性別や年齢を超えた、しかも力にのみ頼ることのない世界がここにはあります。

コメント
name.. :記憶
e-mail..
url..

画像認証
画像認証(表示されている文字列を入力してください):